ちいさなごみばこ




あの楽園/ 不器用な戦場で/ アーティフィシャルが崩れ落ち、/







































 


絶え間なく部屋に溢れ返る快楽に満ちた多種多様なその声らは、確かに一言一言が違う声言葉であるはずなのに 僕には同じ音としか感じることが出来なかった。あァ、なんて糞甘ったるいんだろう。吐き気がする。 部屋の中央にある大きなソファにスペースを持て余してどこぞの独裁者のように座る僕を見る者は誰も居ない。 皆が皆己の内を駆け巡る快感に酔い痴れてその時その時を莫迦みたいに過ごすことで手一杯なのだから当たり前だろう。 大して美しくもなく大して凛凛しくもない男女の交わりなど見ていて楽しいものではない。しかも多数だから余計に嫌になる。 そういう場所だから仕方が無いのかもしれないが、好きでここに居るわけでもないのだから文句ぐらいは心の中でぼやいたって許してくれる筈だ。


あの女がここに居ると聞いたのだ。 あの女の香りはそれはそれは心地よく、同時に脳裏に衝動を喰い込ませる。 僕はたった一度だけその女と出逢ったことがある。 もう一度あの香りを味わうことができたならどれほど悦だろうかと思った。


(はッ、出逢う・・・か)


出逢う以上を求めなければこんな所に居やしないというのに。




あの楽園

(ああどうか僕もこいつらみたいに夢中で貴女を!)


2008.05.07





























 


素早く右側に跳躍するべく左足を重心にしたところを見計らって相手は懐に仕舞っておいたのであろう短剣を躊躇い無く僕の左足に投げつけた。 思わず「危なっ!」と分かりきった事実を叫びながら間一髪の差でその跳躍が間に合ったからよかったものの、 あの攻撃をまともにくらっていればこの勝負は相手の物になっていただろう。 そしてその動作によって相手と自分の間に近いとも遠いとも言えない微妙な間が開いた。


「・・・!」


しかしその距離はすぐさま縮められることになる。僕は気を緩めてしまっていた。


「ちょ、え?」
「・・・・・・」
「ま、待った待った待った俺は――、!」


彼女が踏み切った瞬間に砂塵が舞ったことだけがかろうじて俺のビジョンに明確に映った。 今は何も見えない。何も見えるはずが無い。 俺のビジョンには長い睫が瞼と共に伏せられている彼女の瞳しか見えない。 あァ、唇が柔らかく接している。 先程までの激音爆音はとうに消え失せ、今は彼女によって作られている沈黙が辺りを制している。 やがて彼女は唇を解放し、ありったけの言葉で愛を俺に伝えるのだ。 過激や過激――彼女のアプローチ。ああ、俺好きな子居るのになあ・・・





不器用な戦場で

「・・・好き」「俺死ぬ所だったんだけど」


2008.05.07





























 


こうして私と彼はいわゆる「お友達」という関係になったのだがそれが自然な流れであったのかというとそうではない。 寧ろあまりに奇怪なきっかけから始まった関係なので未だに私は彼をなんと呼べば良いのか分からないでいる。 だからできるだけ名を呼ばないようにと代名詞を駆使して会話を成立させているわけなのだが、 大多数の中から彼だけを特定して話しかけようとする時にはどうしても名を使わねばならない。 私はそれがとても嫌で、そう、とても嫌で嫌でしかたがないのだった。


「それを僕本人の目の前で言うとは・・・」
「隠すよりかはマシじゃないかと思って」


けして彼のことが嫌いではないのだ。その証拠にこうしてわざわざ休憩時間を彼との雑談に費やしている。


「僕はさあ、『嫌いじゃない』って言われるより『好きじゃない』って言われたいな」
「マゾ?」
「いや。『でも嫌いじゃないんだろう?』って言ってみたいから」
「そこで顔を赤らめる女の子に弱いのね」
「僕はツンデレが好きだからな」
「ほざけ」


軽くおどける彼を見てやれやれと一息吐く。 こんなふざけた会話も出来るほどに彼とは打ち解けているのに、どうして名前で呼べないんだか。


「あー、あとさ」
「ん?」
「名前を恥ずかしがって呼べないヤツも可愛いと思」
「死ねええええ!」


ああもう全て分かっていたわよそうよ名前を呼べばどうなるかってことくらい それをあなたも理解していただなんてその上躊躇いなしに踏み込んで私をまた素直にさせてくれないの!





アーティフィシャルが


崩れ落ち、


(気付かない彼女と確信犯の、)


2008.05.07


































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