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05 「あのさあ」 「はい?」 「・・・帰りたいんだけど」 ある時はボランティア活動をした時もあるし、またある時は機密情報をハッキングした。 つい最近だととある女性を殺した・・・いや、とある麻薬中毒者を救った、だとか。 そんな訳で彼が行う様々な軌道修正を私は今まで役割の名の通り「傍観」していたわけなのだが、 現段階で私はとてもその傍観者という役割を捨てたいと思っている。 天井はそれほど高くはないのだがどこか空間的な広がりを感じさせるような構造になっていた。 照明は暗く、しかし目の前がある程度鮮明に認識できるぐらいには光を放っている。 すう、と息を吸うとふわりと優しい香りがどこからか匂うのだが、その優しい香りにはどこか眩暈を覚えるような刺激も感じられた。 部屋の色は撫子色で統一されており、薄暗さと合わさって撫子色というよりかは若干薄紫色という印象を受ける。 ・・・撫子色、なんて言うけれど実際は要約するとピンク色である。 今回私が居るのはそんな場所。本来私が踏み込むべきではない場所。 「駄目に決まってるじゃないですか。あなたは、」 「『傍観者』よそうよ知ってるわ、でもね――」 ラブホテルで何を傍観するというのだ。 深く溜息を付き、頭を抱える。 彼は優雅に紅茶を飲みながら部屋の中央にある存在感がやけに大きいベッドに座って寛いでいた。 ちなみに要らない説明だがベッドは回転する。 私はというとどうすることも出来ずただ立ち尽くしているだけである。 いや、だってほらこんな所に来たことなんてないし勿論来る予定なんて私の人生設計のどこにもないし。 「ふふ、ウブなんですね」 「死ね」 睨んだところで彼はくつくつと笑うだけだ。 しかし本当に彼はこんな所へ私を連れて何をするというのだろう。 私を連れて、と言ったが単に私が傍観者であるからという理由だからであって私を連れてどうこうという訳ではないのは確かだが。 「で?今回はどんな内容を修正するつもりなの」 「そんなに急かさないで下さいよ・・・ゆっくりと、ね」 「何か匂わせるような返答をするな」 「匂わせてしまいましたか?」 なかなか話の本題を切り出そうとしない彼に若干の苛立ちを感じ、自然に目元に力が入る。 彼はそんな私の眼光を見て、まるで「やれやれ」とでも言うかのような表情で話し出した。 やれやれを言いたいのは私のほうだというのに。 「今回もまた人を救う内容ですよ」 「・・・・・・」 「ああ、大丈夫です前回のように誰も死にませんから」 「・・・そう」 一瞬見慣れた笑顔が脳裏をそっと掠めていった。 「しかも救出する人が首相なんて面白い話じゃありません?」 「どうせこんな所に来て浮ついているやつなんてロクでもな――、・・・え?」 「なかなか珍しい話だと思うんですけれどね」 「・・・・・・マジか」 我が国の今後が非常に心配である。 どうせ権力を振りかざして好きな女をはべらかしているのだとかそういう不純な理由なんだろう。 言われてみればあの首相・・・スケベそうな顔しているようにも見えなくはない。 いやこれはあくまで彼の放った言葉による後天的な偏見であろうことは間違いないけれど。 「痴情の縺れで殺されるのね」 「いや」 「なら恨みを買って誰かに暗殺されるのかしら」 「いえ」 「じゃあ何故ここで?」 なかなか答えようとしない彼に痺れを切らせ私は早く答えろと促した。 この場所に相応しい返答が返ってきた。 「避妊具を付けてしまう 面白そうに、まるで何か良作を提示しているかのように人差し指をピンと立てて彼が私に齎した返答は一瞬私の周りの空気を止めた―― というか凍らせた、気がした。 「ひに・・・?!」 「折角『若気の至り』という言葉があるのですからもっとルーズになってもいいと思うんですけれどね、本当」 「い、いやちょっと待って、私達今何の話してたっけ?」 「首相が何故殺されるのかですね」 「・・・?、・・・・・・?」 「・・・分かりませんかね」 「――後の首相を妊娠する筈の女性が誤って避妊してしまった ぽかん。ああなるほどそういう話の展開は予測していなかったわだなんて言える筈も無く、 ただ単純に呆気に取られたとでも言うべきか。私は何も言えぬまま、また棒の様に立ち尽くした。 「この話の流れは実に奇怪ですよね、僕も驚きましたよ」なんて言いながらいつの間にか飲み終えていた紅茶のカップを机の上に置き、彼は私の前へすっくと立って、 「さあこれから避妊具を回収せねばなりませんね。行きましょうか、果実」 呪いの宣告を私に告げるのだ。 |