母は私が知る限りでは他のどの女性よりも良妻賢母という言葉が似合う人だった。 優しくあり慈悲深く、時に厳格でもありそれでも最後にはどんなことも受け止めてくれる海のような人だった。 母が海ならば父は空のような人だった。 どこまでも雄大でいつも太陽に照らされているようにきらきらした笑顔がやけに印象深く、 泣いたり、怒ったり、勿論よく笑ったりしていた。感情の絶えない人だった。 そんな自慢の両親に育てられた私はすくすくと元気に成長して平凡で幸せな日常をゆっくりと歩いていた。 その日々に今でも想いを馳せることがある。 それぐらい私にとってその日々はかけがえのない大切な時間だったのだ。


思うに人はきっと力というものには心底弱い生き物なんだろうな――と、そう思う。


それは例えば単純な握力や腕力から成る暴力的な力でもあるし、知力や精神力から成る意識的な力においても言える。 また権力や財力といった社会的な力――挙げだしたら限りが無い。 力を求めることが悪い、とは思わない。 けれどそれに溺れてしまいたがる人のことを私は理解できない。 ・・・というよりその力に屈する人、と言ったほうが良いのか。 まあそんなことを言えるのも私がそれを経験した人の結末を見てしまったからなのだけれど。


力は人を輝かす。しかしそれと同時に酷く愚かに仕立て上げる。
力は人を強くする。しかしそれと同時に大事なものを奪っていく。


「ギブアンドテイクなんて、笑わせる」


結果空と海は青さを失っただけだったというのに。




青碧の記憶




2008.03.30