人は新しい知識を脳に詰め込む時、エネルギーの消費量がぐんと上がる。 具体的に言えば脳がエネルギーをより多く摂取したがると言えばいいのか。 結果的にそれは体内に摂取されたブドウ糖をエネルギーへと換算する為、カロリーを消費しているということになる。 数値で表すと脳のエネルギー消費は大体二百三十キロカロリー前後。 しかしこれも平均的な数値であり、脳を使えば使う程この消費量は多くなる。 ひとつの例として、一日の手合いで二キロ体重が落ちるという将棋のプロも居るらしいのだとか。 まあつまりのこと、俺がこんな話をいきなり持ち出したのは――今俺自身が甘い物を欲しているというただそれだけの理由なのだが。


やれやれ全くどの世界においても下っ端というものはいつも苦労をしてばかりだ。 俺が所属しているシャルド・レイ・ドル(略称でSRD)という とある団体へ入団したばかりの俺は 優しい優しい先輩達から妖化使の属性解析と分布図作成、そしてそれらをパソコンへと入力して資料を作成し 明日行われる一斉ミーティングの為の下準備をさせられているのであった。 ・・・いい人達、なんだけどな・・・。 とほほ、なんて言う暇もなくカタカタと手元のキーボードを打ち続けながら俺は今頃楽しく各々のやりたいことを堪能しているであろう 先輩達を恨めしく思った。ちなみにこれは今回だけではないということを頭の隅に入れておいてもらいたい。


SRDとは、妖化使対策の為に可決した『妖化使殲滅対策特別法』に則られて結成された団体だ。 妖化使を研究し、殺し、時には捕らえて解剖・解体を施してその存在を髄まで知ることにより、この世から抹消することを目的としている。 ちなみにこのような団体はうちの他にもある。否、うち以外にひとつ存在するだけでその他にはない。 というのもSRDとは別に国が自ら結成した妖化使専門機関(通称エリノス)があり、大多数の研究者達はそこに身を置いている。 ではSRDとは何なのか。答えはこうだ。


異端者が集う場所、、、、、、、、


研究者という人種によく持たれる奇人変人というイメージがあるが、そんなレベルではすまない。 奇人変人変態変質者異端者異常者狂人者などなど――一癖も二癖もある者が寄せ集められた団体。 ちなみにそこに所属する者は自らSRDを望んだ者も居るが、エリノスから厄介払いされて来た者も少なくはない。 また笑える話だが、その研究者達のエリノスから追い出された話というのが 『妖化使のサンプルを解剖している最中に欲情し出した』だとか『妖化使料理教室なんざを研究費を使って勝手に立ち上げやがった』 ・・・・・・エトセトラ。 そして更にもうひとつ笑える話をしてあげよう。


ガラリ。


「ただいまー!ねえねえ君はとんかつソースかマヨネーズどっちが妖化使に合うと思う?」
「こ、こらサンプルを振り回すな!もっと優しく丁寧に扱え!」
「・・・おかえりなさい」


妖化使に性欲を抱く研究者、妖化使に食欲を抱く研究者。 ・・・・・・共に俺の先輩である。


二人の先輩は俺に雑用を任せて行った妖化使のサンプル回収を終えて戻ってきた。 ぼとりと床に置かれた袋はもごもごと動き、時に「キキー!」という甲高い声を上げる。 妖化使と言うと大きな怪物や化物を想像してしまうが、このように小さな妖化使も居ることは居る。 ただ滅多に人前に姿を現せない為、色々と策を講じる必要があるのだが。 ちなみにこの妖化使を捕らえる作業というのは団員にとっては容易いことで、こんな作業に4時間もかかるわけがないのだ。 精々1時間、2時間あれば十分。空白の2時間は言うまでも無く――先輩方の趣味の時間に費やされたのだろう。


「あ、買ってきたよー」


ぽいっと投げられたコンビニの袋。 俺はそれを片手でキャッチし、礼を言って待ちわびていたそれを袋から取り出した。 甘い物食べたかったんだよなー・・・、・・・・・・・・・、・・・? 取り出した物を見て泣きたくなった。


『カカオ99%チョコレート』


「ん?どうしたの?涼くんの望んだチョコレートだよ」
「ええ・・・そうですね、チョコレートですね」
「君、頑張ってるからさ。ちょっとお高いの選んだの」
「・・・あおぎ先輩」
「ん?」
「カカオ濃度って知ってますか」


妖化使に食欲を抱く研究者「久留米 あおぎ」
白衣の下にベージュのタートルネック、黒のスカート。
髪はショートカットで茶髪と金髪の中間色のような色をしている。
少し子供っぽい性格とは裏腹に見た目は綺麗系美人だ。


「仲先輩と一緒だったんでしょう?」
「んー、でも仲はコンビニ寄ってないし」
「そうなんですか」
「うん。私がコンビニ行ってる間に仲がサンプル捕まえてくれたんだもん」


くい、とあおぎ先輩が仲先輩を首で示した。 笑みを浮かべながらサンプルを解剖している仲先輩が居た。


妖化使に性欲を抱く研究者「片瀬 仲」
白衣の下には紺色のTシャツとジーパン。
少し付け足すなら白衣にはいつも必ずどこかに妖化使の血が付着している。
黒い髪を小さく後ろでまとめてあり、細い眼鏡をかけている。


「仲先輩、解剖は一言言ってからって言ってるでしょう!」
「涼、お前は目の前に雑誌の袋綴じがあれば開けたいと思うだろう」
「・・・まあそりゃあ少しは」
「それと同じさ」
「袋綴じを開けるのと妖化使の腹切り開くのは同じじゃありません」
「あー仲!足はあたしのだからね!ソース無駄になるのは絶対嫌だからね!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎながらきっちりと解剖(や)ることは解剖(や)る先輩方はやはりなかなかの強者である。 俺はようやく出来た資料の端を軽く揃え、チョコレートを一欠片口に含んだ。苦かった。


久留米あおぎ、片瀬仲、そして俺――妖化使を殺せない研究者――春乃内涼。 SRDの中でも特に変わったメンツが揃えられたと噂されているこのグループは今日も元気に楽しく、研究は滞っている。






メランコリックは愉快


(とりあえず仕事して下さい)

2008.03.14