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02 正直第一印象というと、あまりはっきりとは覚えていない。 それよりも私にとっては出会い方のほうに問題有だったので、顔がどうのこうのだとは考えている暇などなかったのだ。 しかし今改めてみると若干顔は整ったほう、だと思う。 絶賛するほどの美形ではないのだがけして不細工ではない。分かり易く言うと中の上、もしくは上の下あたりの顔だ。 髪の色素は薄めで、時折光に反射して茶色の髪が金色に見えるときがある。 少し長めに伸ばした髪は風に揺られてさらりと靡き、襟足の髪までもが綺麗に揺れる。 にこりと微笑むその顔は優しさと愛おしさと慈悲に似たような感情が混ぜられてできたような、どこか不揃いな印象を受けた。 「――それだからこそ僕が存在する。そしてあなたはそれに巻き込まれた可哀想な女子生徒。 しかしそれも物語の一頁にしか過ぎない、勿論修正などできない。 いや、修正というのは少し違いますね――そもそも修正などしなくても物語は常に完成した状態であるからこそそこに存在するのですから。 それが例え未完のままであったとしてもそれこそが完成した形状として生き続ける。・・・ふふ、面白いですよね」 「・・・楽しい?」 「ええ。とても」 そうしてまた彼はにこりと笑って不揃いな笑みを浮かべた。 いつだって、この笑顔だ。初めて会った時から何も変わらずに彼は笑い続ける。 喫茶店の中はお昼時だというのにあまり人が見当たらず、小さく流れるお洒落な音楽と微かに香るコーヒーの臭いが程よく調和していた。 恒例になった軌道修正の時間 「おや、もうそろそろ時間ですね。僕としてはもう少しあなたとお話を楽しみたかったのですが」 「私もあんな時間を過ごすぐらいならこうやってあんたと茶でも飲みながら聞きたくもない話を延々とされるほうがまだマシだわ」 「いやですね、僕と過ごす時間が苦痛なように聞こえるじゃありませんか」 「そう言ってんのよ」 「つれない人ですね」 そう言いながら彼は勘定を手早く済まし、早く行こうと私を促す。 私は重く感じる腰を動かし、溜息を吐きながら彼と並んで目的地へと歩き出した。 * 「今回は良いこと?悪いこと?」 「今回は良いことですよ。なんせ人の命を救うんですから」 「へえ」 「同時にひとつの命を奪う結果にはなりますがね」 「・・・それって良いことなの?」 「プラスマイナスゼロ、ということになるんでしょうか」 そうこうしている間にいつしか路地裏へと到着していた。 ここは、どこだ。地元周辺ではない日本のどこかだということだけが分かる。 しかしまだ気温がさほど地元と変わらないことだけが救いだった。(以前いきなり氷点下の雪山だったことがある。きっと北海道か東北あたりだったのだろう) 薄暗いその路地裏は狭くはなかったが鼻をつんと刺すような臭いが微かに漂っている。 「あと3分で開始ですので」 デジタル時計で時刻を確認し、彼はいつも通りの微笑みを絶やさないままある一点をじいっと見つめていた。 すぐ先の、曲がり角。 これから一体どう物語が展開していくのかはまだ私には分からない。 ただ分かっている事は「誰かを助ける」ということ、それと同時に「誰かが死ぬ」ということ、 そして私は今から起こる物語の一頁をただただ見つめることしかできない傍観者でしかないということ。 聞こえる筈の無い秒針の音が胸の中を大きく揺さぶるように木霊した。 カチリ 同時に、悲鳴。 「―――――――――――――!!!!」 ダッダッダッダッダッダッ、と荒々しい足音がふたつ、真正面から近付いてくる。 彼はその足音を満足気に聞きながら(さながらクラシック音楽を聴いているかのように)くすりと笑った。 「ねえ、」 「何よ」 「今回はあなた、傍観者じゃないかもしれませんよ?」 「え?」 「だって・・・あちらの方とは親しかったのでしょう?」 彼の視線を追う。 ふたつの足音の正体がそこには明確に記されていた。 追われている方はまだ若い女性だった。容姿からして20代半ばあたりのこの近くで働くOLだろう。 そして、追う方は。 「・・・、・・・・・・。・・・・・・何で?」 見間違いかと思った。だから目を何度も擦った。しかし現実は何も変わらなかった。 たとえ髪がだらしなく伸びていても髭が無様に生やされていても目がイっていてもその手にギラリと輝く包丁を持っていても 嘗て確かに私が好きだった人。そして私よりも夢を追うことを選んだ人。 つい半年前に別れたばかりのあの人がそこに居た。 「だって・・・だってあの人、今海外に行ってる筈よ? 大きな企業を立ち上げるんだって言って・・・飛行機に、乗って」 「今はどう見ても立派な麻薬中毒者ですよね」 「っ、」 明らかに常人じゃない。 それは彼でなくとも分かるだろう。 女性の背中を追い続け、手にした包丁を振り回しながら走る彼の目は夢を追うと私に告げた時の様な目ではなかった。 (――莫迦な人) 何がどうなってあの人がこんな風になったのかは分からない。 あの人は夢を掴もうと手を伸ばした。でも掴めなかった。 ・・・たったそれだけのこと。 「・・・ねえ」 「何でしょう」 「楽にしてあげて」 私の中のあの人が、醜い姿に書き換えられるその前に。 |