盲目の移り香はやがて翻弄を押し潰すのだろうか
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風が呼応している。空は青く青く晴れ渡り、またその青さに似合う活気が城下町から溢れ返っていた。 しかしここはとても静かだ。ぴんと糸が張り詰めて作られた空間であるかのように全てが硬直している。 細やかな空気の震えも知らぬというように全てのものが動いていない。気がする。 男はその間が嫌なように、咳をひとつ落とした。 ごほんと音がした時始めて世界の歯車が回りだしたかのような錯覚を感じた。 「どうぞ」 女はそんな男の前に水の入った湯飲みを置いた。女の指が湯飲みに触れた時、鐘の音が聞こえる。 キン、氷がぶつかり合う音のような心地よいものではない。金属と陶器がお互い相容れぬと悲鳴を上げるかのような音。 それはどこか女の金切り声のような気がしないでもなく、男は僅かに眉を寄せたが「ありがとう」と言った。 けして不愉快ではなかった。 俺は独りだ。こうして隣に女が居たとしてもそれは変える事の無い事実であって曲げられる真実でもない。 しかしどこか歪んでいる。確かに体温はないといえども人特有の温もり、だとか安堵感だとかに満ち溢れているのだ。 果たしてそれが万人が感じることのできる感情なのか――あえてそれは聞かないでほしい。 導き出される結論は否であるとこの世界に存在する誰よりも痛感している最中だ。 独り、一人だ。ここに俺は一人で居る。 彼女から渡された湯飲みを口に付け、入っていた湯をこくりと飲むと喉の中を誰かが這うようだった。 「・・・、なあ」 「、はい」 「何度も言ったことなんだが」 「・・・・・・」 彼女の全てに惹かれている。俺が幼い頃から彼女は素晴らしく残酷なまでに美しかった。 世界で美麗だの華麗だのと謡われた物、景色、人、それら全てを劣等感で殺すほどに美しかった。 傷で汚れることもなく醜い言葉で罵されることもなく凛とそこに居座るだけで罪なき者に罪を覚えさせるような。 純粋に、欲しいと思った。 「俺の物になってくれないか」 この言葉もいったい幾度口にしただろう。 近頃になって(今更というものだが)この言葉を口にした時に限って必ずずしりと鉛を吐き出させるような感覚を覚えるようになった。 そして吐き出すと同時に胃のあたりに何かを無理矢理詰め込ませられるような圧迫感が体内に駆け巡る。 今だって、重い。それは確かに先程飲んだ湯の重みではなかった。 「俺の傍に居てほしいんだ、ずっと、死ぬまで」 「何度も言った、で、しょうに・・・私はもうあなた、の物 じゃないですkか。この体はあなた無しに動き やしませんもの」 「お前の心は動くだろう」 「、心zは動くものじゃありまヴせ んわ」 彼女の肌は美しい。全ての景色を歪に絡み取り銀色の世界に変える。 そっと触れればひんやりと冷たく、硬く、傷は彼女を拒む。 肌だけではない。瞳だって美しい。 彼女の視線はいつだって動くことなく水平に前だけを見ている。意思の強さを絶え間なく宿らせている。 唇は開くことなく、ややノイズ混じりの人工的な声が躊躇いがちに胸の中央辺りの小さな窪みから発せられた。 「nねえ、私はあなたが好、きよ」 「本気でお前はそう思うのか」 「好きにな らないと私、は思うこともdで きないんだもの」 「それは愛とは言わないだろう?」 「あな、たは私をaiす と云うの?」 がしゃん。 強引に畳へ押さえつけた彼女の体に俺の顔が写る。 ゆるやかな曲線に従うようにして写し出された俺の顔は、嗚呼――なんと愚かな目をしている。 俺は一人だ。こうして心の底から愛している女を組み敷いていても、一人なのだ。 所詮ここに生きるのは俺一人しかいない。生を受けずに存在するものを愛してしまった 「交配は d出来ませ、んよ。気持ちの、問 題でなく物 理てき に」 「・・・知っている」 「私をどうするおつもり?」 珍しく流暢に出た彼女の言葉。できれば俺に愛を囁く言葉であってほしかった。 「抱くよ、お前を」 「・・・、gまあ」 動くことのない彼女の顔がほんの少し、僅かに歪められた気がした。 ギ、ギ、ギ、と背中に回される、腕。鋼鉄の指先がしっかりと俺を求めた。 |