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「よ」 「・・・また来たの」 暗い夜道を街灯が照らす。今日は月が出ていないので月明かりは皆無。 それでも街灯のおかげである程度視界は開けているし、目の前の彼女を判別するには十分だ。 足元には飛び散る腕。勿論人間のではなく妖化使の、である(人間だったら俺はここに居ない) 血溜まりをよけながら一歩一歩彼女の元へと近づくと彼女は一歩だけ下がった。・・・嫌われているのは重々承知だ。 「此処へ来る意味などないでしょう?」 「なかったら今頃家で熟睡しているさ」 「・・・」 何故此処へ来るか。決まっている。彼女の力について聞きたいからだ。 聞きたい・・・というよりはその力を得たいが為に、と言ったほうが適切だろうか。 あの三日月が出ていた夜、この公園で俺は自分が探していた答えを持つ者を見つけた。 圧倒的な力で捻じ伏せるその様子といったら――脅威、とも取れる。 「いつからそんな力を?」 「・・・」 「あの鎌は自分で作ったのか?」 「・・・・・・」 「何か訓練でも受け―」 「あなた、」 「妖化使を殺せないのね」 どくんどくんどくん、心臓が揺さぶられるように蠢く。 胸の奥へと深く深く突き刺さるかのような辛辣すぎる言葉だった。 「なんで、それを?」 「分かる人には分かるから」 「・・・だったら尚更、あんたの力について教えて欲しい」 「妖化使を殺したいから?」 「殺したいからだ」 そう俺は妖化使が殺せない。 頭では理解しているのだ。ここでこうすれば妖化使はこうなるのだとか、抹殺方法はいくらでも知っている。 だがいざ実践してみると――殺せない。殺せないのだ。 方法が間違っているのでもなく、手順を踏み間違えたのではなく、もっと根本的な原因だと厭でも理解した。 「俺が殺すと殺せない」 「・・・」 「俺には論理じゃなくて力が必要なんだ」 「・・・」 「あんたみたいに何の論理もなく妖化使を殺すような、力が」 「もういい」 いつもの無機質な声と違って淡とした声が先程のように俺の言葉を遮った。 ・・・俺、怒らせるようなことを言ったか? 確かに毎晩毎晩こうも飽きずに付き纏っていれば厭にもなる・・・、・・・・・・十分怒らせる要素はあった、か。 俺の自問自答に彼女は微塵も表情を動かすことなく、すっくとその場で立ち上がったかと思うと―― 俺の喉元を刈るかのようにその大鎌の刃を俺の首にぴたりと密着させた。 「な」 ほんの少し空気を揺さぶるかのような声を出しただけでもその大鎌が自分の首へと食い込むのが分かる。 痛みを感じはしなかった。表面の皮膚は切れているのは間違いなかったけれど。 「殺意と向き合って殺戮を繰り返す者がいれば対極に位置する者も居るわ」 「・・・?」 「殺意を押し殺して殺戮に手を染めない者」 よくよく見てみれば目の前の彼女はとても整った顔立ちをしていることに今更気がついた。 彼女と出会うのは(俺が一方的に会いに来ているのだが)必然的に夜が多い。 だからこうして近い距離で初めて彼女と向き合った今、その凛とした表情に一瞬目を奪われた。 「なら私は、・・・あるいはあなたは何なのかしらね」 冷ややかな目、曲線を描かない唇、全てに失望しているかのような顔。 まるでどこかの絵画のようだ、と場違いにも思ってしまう。 「・・・確かに此処に殺意はあるのに」 絵画の唇から言葉が零れた時―大鎌が風のように俺の首をすり抜けた。 刃がまず喉仏に深く食い込み、異物が己の中を這うようにして切断される感覚。 ぷつりと糸が切れたような音がした気がした。もう喉に異物の感覚はない。 やはり痛みは感じなかった。 「・・・あ、れ」 透き通るような彼女の声ではなく、ただ単純に間抜けな俺の声が聞こえる。 俺の首は先程と変わらぬまま繋がっていた。 |