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放課後、夕暮れ、下駄箱、一通の手紙。 事細かな説明をはぶけばそれは単なるラブレターというものであった。(結構自分で言うと恥ずかしいものだ) ラブレターと言っても、白い封筒にお決まりの赤いハァトのシールを張ってあるようなものではなく ルーズリーフを四つ折りにしただけの、まあ、その… (質素っていうか、淡白過ぎるというか…) そのルーズリーフ、否ラブルーズリーフに書かれた言葉も同じぐらいに淡白なものだった。 でもただひとつだけ一般的な愛の告白にしてはおかしなところがあった。 『好き でした』 『です』ではなく『でした』――過去形で括られた―告白。 過去形とは過去を表す形であり過去以外の何も表さない。 イコール今は好きではない、と? これではラブレターの意味なんてないんじゃないか? っていうかそれならわざわざ出さなくても良いというのに。 でも―私にとってはそのほうが都合がいい。 恋愛感情など持たれたところで私にはそれと同等の気持ちを返すことなどできそうにないから。 心の余裕のなさがよく分かる。 結局は自分のことで一杯一杯なのだろうと思う。 ひとつ溜息を零す。するとそれがスイッチになったかのようにひとつの物音が聞こえた。 「―あ」 「…?」 少し驚いたかのような声を出したその人は、私の姿を見て立ち止まった。 見たことのない男子学生だった。当然同級生なのか先輩なのか後輩かも分からない。 「見てくれたんだな」 「はい?」 「それ」 その男子学生が指を刺した延長線にあるのは、ラブルーズリーフ。 ああ、ということはこの男子学生が私にこれを宛てたのか。 過去形の告白。それが何を意図するのか、それを私に伝えて何になるのか。 私はそれも当然分からない。 「これに対する返事が欲しい訳では、ないんですよね?」 「君はそれに返事が出来るのか?」 「…いや、出来ないけど」 「普通はそうだろうね」 ははっ、と爽やかそうに笑われた。いや、笑われても。 「これにはどういう意味があるんですか」 「どうって、そのまんま」 「好き『だった』っていう事実を伝える為だけに?」 「ああ」 「それを私に伝えてどうなるの」 校内にはまだ学生がちらほらと残っている。 グラウンドでは、段々夏に近づいている青空の下で野球部員が汗を流している。 きっと音楽室では管弦楽部の生徒達がコンクールで演奏する曲を猛練習しているのだろう。 しかし今この瞬間、私の周りは静寂に包まれていた。 音もなく、風もなく、静かに、 答えを待っている。 「普通に好意を示しても君は何も興味を示さないだろう」 「…そうでしょうね」 「少し話が逸れるけど―― まず、僕は見ず知らずの人に好きだと言われてOKと答えはしないと思う」 「うん」 「だからね、まず君に俺を知ってもらえればいいんじゃないかって考えた訳」 「…うん」 「でも僕が好意を抱いているってことは知っててほしくてさ」 「…うん?」 「だからちょっとインパクトのある接触をして僕を認識してくれるようにと―」 「ちょ、ちょっとストップ」 「何?」 手元のルーズリーフに書かれた言葉。それは過去形だったはずだ。 でも今の言葉を聞くと、 「でもこれ、好き『でした』って、過去形で」 「あっはっはごめんね嘘」 「嘘!?」 「あっはは!でも、これで僕の目標は達成できたわけだ」 「え?」 「君はもう僕を認識しただろう? こんな第一印象強すぎる人、忘れるほうがどうかしてる。あはは」 爽やか〜に笑う彼を見て私は一瞬ポカンと間の抜けた顔をした。 しかしその次の瞬間に私はまんまと彼の思うツボに嵌ってしまったということに気が付いた。 もう私と彼には紛れもなく十分すぎるほどの縁が構成されてしまったのだ。 少なくとも「赤の他人」レベルから「顔見知り」程度まではランクが上がっている。 「あ、あんた…!」 「そういうわけで」 こほんとわざとらしい咳払いをし、背筋をピンと立てた彼はこう告げた。 「僕は貴女のことが好きです。よければ顔見知り程度から始めてもらえませんか?」 とんだ道化師もいたものだと私はつい微笑んでしまい、 またその行為に自己嫌悪や敗北感など、色々複雑な感情を抱えて頭を悩ませた。 きっとこれから私は彼とディープでシュールな付き合いをしてゆくのだろう。 |